評価: DeepSeek — 企業導入可否
- 公式アプリ・API経由の業務利用は不可。データは中国のサーバーに保存され、中国の法令が適用されることを個人情報保護委員会が公表している
- ただし「DeepSeekは禁止」で思考停止すると判断を誤る。オープンウェイトを自社環境で自己ホストする場合、越境移転と適用法令の論点は消える
- 評価すべきは提供元の国籍ではなく、データがどこへ行き、誰の法令が及ぶか。この区別を社内規程に落とすこと
基本情報
| 提供元 / 所在国 | DeepSeek / 中国 |
|---|---|
| 公開日 | 2025年1月20日 |
| 提供形態 | 公式アプリ・Web・API(中国のサーバーで処理) / オープンウェイト(自己ホスト可) |
判定サマリ
| 想定用途 | 判定 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 技術評価・ベンチマーク目的の検証(機密情報を入力しない) | 可 | 入力に自社の情報を含めなければ、越境移転・適用法令いずれの論点も実害につながらない |
| 公式APIで社外公開情報のみを処理 | 条件付き可 | 処理対象が公開情報に限られることを技術的に担保でき、越境移転について社内の承認を得ていることが前提 |
| オープンウェイトを自社環境で自己ホストし、社内一般文書を処理 | 条件付き可 | 推論が自社環境で完結するため軸A・Bは適用外になる。入出力フィルタと監査ログを自社で用意することが前提 |
| 公式アプリ・APIでの社内文書・業務情報の処理 | 不可 | 中国のサーバーへの越境移転が発生し、中国の法令が適用されることを個人情報保護委員会が公表している |
| 個人情報・顧客データの処理(公式サービス経由) | 不可 | 上記に加え、個人情報保護法上の越境移転の要件を満たす手当てが現実的に困難 |
評価軸
各軸は「事実→根拠→評価」の順で記載しています。評価は断定ではなく、条件付きの判断材料です。
A. データ所在地・越境移転(公式サービス) 高
事実: 個人情報保護委員会は令和7年2月3日(令和7年3月5日更新)、「当該サービスの利用に伴いDeepSeek社が取得した個人情報を含むデータは、中華人民共和国に所在するサーバに保存されること」および「当該データについては、中華人民共和国の法令が適用されること」を公表した。公表時点でプライバシーポリシーは中国語・英語表記のみが公開されており、日本語版は2月28日に公表された。
根拠: 個人情報保護委員会「DeepSeekに関する情報提供」(令和7年2月3日公表・3月5日更新)
評価: リスク高。日本の監督官庁が保存先と適用法令を名指しで公表している事案であり、社内の越境移転審査でこれを認識していなかったとする説明は成り立たない。個人情報保護法上の第三者提供・越境移転の規律に照らすと、公式サービス経由で個人情報を含むデータを扱う運用は、本人同意または基準適合体制のいずれの手当ても現実的に困難。
B. 適用される中国法令の範囲 高
事実: 個人情報保護委員会の公表資料では、適用されうる中国の法令として中華人民共和国個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、中華人民共和国国家情報法が挙げられている。国家情報法は、当局からの要請があった場合に企業がデータを提供する義務を負う旨を定めているとして、企業利用の文脈で繰り返し指摘されている。
根拠: 個人情報保護委員会「DeepSeekに関する情報提供」/ 個人情報保護委員会「中国の個人情報保護制度」
評価: リスク高。ここで評価すべきは「DeepSeek社が悪意を持っているか」ではなく「自社のデータに、自社が想定していない法域の請求権が及ぶか」である。この論点はサービス側のセキュリティ対策や第三者認証の取得では解消しない。逆に、データが中国のサーバーへ送られない構成(自己ホスト)を取れば、この評価軸は適用されなくなる。
C. 国内公的機関の対応状況 高
事実: 2025年2月6日、デジタル社会推進会議幹事会事務局から「DeepSeek等の生成AIの業務利用に関する注意喚起(事務連絡)」が発出された。生成AIを業務で利用する場合、原則として機密情報を取り扱わないことを求める内容とされる。同時期に林官房長官は、政府機関での利用について「外部サービス利用については各機関が可否を判断する」と述べ、一律禁止の方針は示さなかった。複数の報道によれば、防衛省・外務省等の一部省庁や複数の自治体が業務利用を制限・禁止する対応を取っている。
根拠: デジタル社会推進会議幹事会事務局「DeepSeek等の生成AIの業務利用に関する注意喚起(事務連絡)」(令和7年2月6日) / 日本経済新聞・ITmedia NEWS 等の報道
評価: リスク高。国として一律禁止はされていないため、「政府が禁止しているから使えない」という説明は正確ではない。実際に求められているのは各組織が自ら可否を判断することであり、判断した記録を残すことである。個別省庁・自治体の措置については報道ベースの情報を含むため、自社の規程に引用する場合は当該機関の一次公表を確認すること。
D. オープンウェイトの自己ホスト(評価軸の切り替わり) 中
事実: DeepSeek はモデルの重みを公開しており、自社環境またはプライベートクラウドで自己ホストできる。自己ホストした場合、推論は自社が管理する環境内で完結し、DeepSeek社のサーバーへデータは送信されない。一方、学習データおよび学習の詳細は公開されていない。
根拠: DeepSeek公開のモデル配布条件 / 一般に流通するセルフホスト構成の解説
評価: リスク中。この評価軸が本記事で最も実務的な意味を持つ。公式サービスに対する評価(軸A・B)は、データが中国のサーバーへ送られることを前提としており、自己ホストではその前提が成立しない。したがって「DeepSeekは不可」という結論を利用形態を区別せずに規程へ書くと、実際には許容できる構成まで一律に禁じることになる。ただし自己ホストに切り替えても、学習データの非開示に由来するサプライチェーン上の不確実性(軸E)は残る。重みは必ず公式の配布元から取得し、非公式ミラーからの取得は避けること。
E. 学習データ・サプライチェーンの透明性 中
事実: 学習に用いたデータセットの構成は公開されていない。これは DeepSeek に固有の事情ではなく、オープンウェイトを公開する多くのベンダーに共通する。
根拠: モデル公開時のドキュメント(学習データの内訳に関する記載なし)
評価: リスク中。調達基準に「学習データの出所を確認できること」を含めている場合、この要件は満たせない。ただし同じ基準を適用すると、多くの商用モデルも同様に満たせないため、この軸だけで採否を決めるのは実務的ではない。自己ホストする場合は、モデルの出力を検証する工程(人手のレビュー、テストケース)を用意することで、透明性の欠如を運用で補う。
F. 出力の安全性・ジェイルブレイク耐性 中
事実: オープンウェイトモデル一般に共通する性質として、重みが公開されている場合、安全策の除去やファインチューニングによる挙動の変更が第三者に可能になる。自己ホスト環境では、ベンダーが提供する入力フィルタ・出力フィルタは適用されず、これらを用意する責任は運用者側に移る。
根拠: オープンウェイトモデルのガードレールに関する一般的な指摘(特定製品固有の検証結果ではない)
評価: リスク中。自己ホストは越境移転の論点を消す代わりに、安全対策の責任を自社へ移す。特に「シェルコマンドの実行」「外部ツールの呼び出し」など高い権限を伴う機能を、人間の承認なしに実行させる用途は避けるべき。この点は提供元の国籍とは無関係で、オープンウェイトを自己ホストする構成すべてに当てはまる。
G. 事業継続性・提供元リスク 中
事実: DeepSeek は中国の企業であり、米国等の輸出規制や各国の政策変化の影響を受けやすい業界的背景がある。公式サービスの提供が各国の措置により停止・制限される可能性は排除できない。
根拠: 各国での政府機関向け利用制限の動向に関する報道
評価: リスク中。公式サービスに依存した業務プロセスを組むと、提供停止時に代替への切り替えが必要になる。自己ホストであれば、取得済みの重みを使い続けられるため、この軸のリスクは大きく下がる。いずれの形態を選ぶにしても、代替モデルをあらかじめ決めておくこと。
導入する場合の統制条件
以下をすべて満たす場合に限り、「条件付き可」の用途で利用可。
- 社内規程で「公式サービス経由の利用」と「自己ホストでの利用」を別の項目として区別している
- 従業員が個人アカウントで公式アプリを業務利用していないか確認している(シャドーAIの観点)
- 自己ホストする場合、モデルの重みを公式の配布元から取得し、入手経路を記録している
- 自己ホストする場合、入力フィルタ・出力フィルタ・利用ログを自社で用意している
- 提供停止・規制変更が起きた場合の代替モデルを決めている
今すぐやるべきアクション
- 個人情報保護委員会「DeepSeekに関する情報提供」を、社内の越境移転審査の根拠資料として保管する
- 生成AI利用ルールの「利用可能サービス一覧」に、利用形態ごとの可否と条件を追記する
- 端末・ネットワークのログから、公式アプリ・APIへの通信が発生していないか確認する
- 自社の調達基準が「提供元の国籍」で判定していないか見直す。判定すべきはデータの送信先と適用法令
この評価記事の位置づけ
本記事は DeepSeek の性能を評価するものではなく、「企業が業務でこのサービスを使ってよいか」という導入判断のための材料を整理したものです。評価軸ごとに「事実 → 根拠(出典) → 評価」の順で記載しており、事実と評価を混在させないようにしています。
評価は断定ではなく、条件付きの判断材料です。実際の導入可否は、自社の取扱情報の区分に基づき、法務部門と協議のうえ判断してください。
この評価で最も重要な論点
DeepSeek については「中国製だから使わない」で結論を出している組織が多くあります。公式サービスに限れば、その結論自体は妥当です(評価軸 A・B)。個人情報保護委員会が保存先と適用法令を名指しで公表している以上、公式アプリ・API 経由で自社の業務情報を扱う判断は擁護しにくいものになります。
問題は、その結論を利用形態を区別せずに社内規程へ書いてしまうことです。
DeepSeek は重みを公開しており、自社環境で自己ホストできます。この構成では、データは DeepSeek 社のサーバーへ送られません。越境移転も、中国法の適用も発生しません(評価軸 D)。「DeepSeek 禁止」とだけ書かれた規程は、この構成まで一律に禁じます。同じ論理を適用すれば、他の中国発オープンウェイトモデルもすべて使えなくなります。
評価すべきは提供元の国籍ではなく、データがどこへ行き、誰の法令が及ぶかです。この区別を規程に落とせているかどうかが、今後この種の判断が繰り返し発生したときに効いてきます。
なお自己ホストに切り替えると、越境移転の論点が消える代わりに、入出力フィルタと監査ログを用意する責任が自社へ移ります(評価軸 F)。リスクが消えるのではなく、種類が変わるという理解が必要です。
最終確認日: 2026年8月22日(公開後も定期的に再確認し、この日付を更新します)